先日、こんなプレスリリースを見かけて、単純に「これは話を聞いてみたい」と思って取材を申し込んだ。
葬儀業界に特化してAI電話を作っている会社がある——株式会社ディライト。葬儀業界特化の人材派遣を行い、「葬儀の口コミ」という国内最大級の葬儀レビューサイトを運営していて、その集客支援事業部が新しく「電話対応AI」の開発・提供を始めたという。
アポを取って、新宿にあるオフィスまで直接伺ってきた。話を聞いて一番印象に残ったのは、華やかな「導入実績」の話ではなく、むしろ「まだ本番導入はゼロです」という正直な現状だった。今日はその話をそのまま書く。

電話対応AIって何をするサービスなのか
ディライトの「電話対応AI」は、葬儀社にかかってくる電話をAIが受ける(受電)サービスだ。現時点ではAIからの発信(架電)は行っておらず、あくまで一次受付としての受電対応に特化している。大きく2つの機能がある。
- 受電の一次対応:ご遺族からの問い合わせ電話を、AIが24時間365日一次対応する
- 文字起こし・要約・CRM連携:通話内容を自動で記録・要約し、担当者が変わっても対応の一貫性を保つ
「アルバイトでもスポットワーカーでもない、新しい社員のような存在」というのが、公式サイトでの説明だ。実際にサンプル番号にかけて試させてもらったが、AI特有のイントネーションは残るものの、パッと聞いた感じでは違和感が少ないレベルまで来ていた。
なぜ「葬儀業界専門」に絞ったのか
ディライトは来年で創業20年になる、葬儀業界に特化した会社だ。人材派遣と集客支援の両輪で、業界の「人と集客の困った」を解決してきたという。今回の電話対応AIも、その延長線上にある。

担当者によると、汎用のボイスボット(カード会社や保険会社などでよく使われるもの)と葬儀業界向けの違いは、問い合わせの「意図の明確さ」にあるという。
「カード会社さんへの問い合わせって、『パスワードがわからない』『解約したい』みたいに、聞きたいことが最初から狭く決まっているものが多いんです。でも葬儀の電話は逆で、問い合わせている本人が『今自分がどういう状態で、何をすればいいのか』わかっていないことが多い。だから葬儀社側が『あなたは今こういう状況ですよね、こういう選択肢とこういう選択肢がありますが、どちらがいいですか』と、かなり会話をリードしていく必要があるんです」
選択肢を1、2、3と読み上げるような「いかにもロボット」な対応では、この手の会話は成立しない。だからこそ、より人間に近いやり取りができる設計を目指している、というのが「電話対応AI」の差別化ポイントだ。
正直に聞いた。「本番導入は何社くらいですか」
ここが今回一番驚いたところなのだが、率直に聞いてみたところ、本番で稼働している導入企業は、現時点で0社とのことだった。
理由は明快で、葬儀の電話1件が数十万〜100万円単位の契約に直結すること。AIに任せて対応を失敗すれば、その分の機会損失が大きい。しかも前例がない。「任せられない」という葬儀社側の心理的なハードルは、想像以上に高いという。
とはいえ、これはサービスの出来が悪いという話ではない。そもそもこのサービスがリリースされたのは2026年8月27日で、取材時点でまだ2週間ちょっと。心理的なハードルの高さに加えて、単純にリリース直後だから実績がまだない、というのも当然と言えば当然の話ではある。
「電話が命の業界なので、そもそも取りこぼしが発生している葬儀社さんって、そんなにいないんですよ。取りこぼしが多い会社があったら、たぶんもう廃業してます」
この一言は率直に「なるほど」と思った。AIツール系の記事を書いていると「導入すればすぐ効果が出る」という前提で語られがちだが、現場はそう単純ではない。
実際に起きたクレームの話
まだ本番導入はないものの、テスト運用の中で実際にあった「気まずい」出来事も聞けた。
一次受付をAIにやらせ、AIだと名乗らせずに対応させたところ、後で担当者が折り返し電話をした際に、相手から「さっきの対応、ちょっと変だったよね、AIだったよね」と気づかれてしまい、心証が悪化したケースがあったという。
ハルシネーション(AIが事実と異なることを話してしまう現象)については、プロンプトでかなり厳格に制御しているとのことで、「プロンプトに書かれていること以外は話さない」という縛りで、今のところ大きな問題は起きていないそうだ。ただし、会話が長くなるとコンテキストが崩れやすくなる(=前半の会話内容を忘れやすくなる)という技術的な限界もあり、今のところは「短時間で完結する一次受付」に絞って試すのが現実的、という話だった。
「一次受付に絞る理由」をもう少し具体的に聞くと、こういうことだった。葬儀社にかかってくる電話は、同じ1本の番号に「逝去のご連絡」「事前のご相談」「現場からのご連絡」「警察からのご連絡」といった、性質のまったく違う用件が混ざって届く。しかも日程相談のように10分で終わるものもあれば、1時間近くかかるご相談もある。AIが「今の電話は何の用件か」を仕分けるだけでも、実は葬儀の業務知識が要る、という話だった。だからこそ、項目が決まっていて短時間で終わる「一次受付」からしか、今は始められないという理屈のようだ。
裏側の技術構成
この手のAI音声対応がどう動いているのか気になって聞いてみたところ、いわゆる「音声をそのまま音声で返す」タイプ(S2S)ではなく、下記の3段構成が業界の主流だという説明だった。
- 音声をテキストに変換する(STT)
- テキストに対してAIが応答内容を考える(LLM)
- テキストを音声に変換して返す(TTS)
「ChatGPTアプリなどで音声のまま会話できる機能は、これとは別の仕組み。今のところ商用利用にはまだ向かない、というのがAI電話業界全体の共通認識」とのことだった。
料金は「初期費用0円・月額基本料0円、使った分だけ」
気になる料金体系も詳しく聞いた。
- 初期費用・開発費:0円
- 月額基本料:0円
- 従量課金:通話1分あたり150円(税別)
※2026年9月時点の金額。サービス導入期間中の価格のため、状況に応じて要相談とのこと。
電話がかかってこなければ費用は発生せず、あふれる電話が少ない月はその分安くなる、という設計だ。固定費を持つ必要がないのは、葬儀社側からするとかなり試しやすい条件だと思う。
なぜここまで安くできるのか、という点も聞いてみた。汎用のボイスボット会社に葬儀業界向けの対応を依頼すると、業界用語の辞書や学習データを一から用意し、音声認識モデルを葬儀向けに学習させる必要があり、1社専用の開発で数百万〜数千万円規模になるという。一方ディライトは最初から葬儀業界に特化して作っているため、各葬儀社ごとの初期費用はかからず、使いながら学習させていく形を取れる、というのが理屈のようだ。
導入プロセスも3ステップで説明されていた。
- 準備(2〜4週間・無償):どんな用件が来ているかを確認し、会話の流れを組み立てる
- テスト(1〜2週間・無償):実際の顧客にはまだ繋がず、ディライトと導入企業の双方でテスト架電して確認する
- 試験運用:あふれた電話をAIが実際に受け始める。ここから毎月の利用料が発生する
試験運用中は毎月、①AIが応対した内容 ②お客様からの申し出の件数 ③確認担当者の作業時間 ④現在の委託先との比較、の4点を報告し、本番運用へ移行するかどうかを判断してもらう流れになっているという。「試してみて違うと思ったらすぐやめられる」という導入のしやすさを、繰り返し強調していたのが印象的だった。
「夜間だけAIに切り替える」といった時間帯ごとの運用については、必要に応じて切り替え対応するという位置づけのようだ。技術的には夜間の切り替え対応も可能とのことで、柔軟に対応してもらえそうだった。導入自体については、既存のボイスボット資産がある会社であれば、プロンプト調整だけで最短1日での導入も可能とのことだった。
今後の展望:一次受付から「全部」へ
今の一次受付というスコープは、あくまで最初の一歩に過ぎないようだ。
「最終的に目指しているのは、今人が受けている電話をAIで全部受けられるようにすること。人の補助ではなく、AIで電話を完結させる、というのが目指しているところです」
さらに一次受付にとどまらず、経理や発注といったバックオフィス業務の自動化にも展開していきたいという話もあった。葬儀業界は繁忙期(12〜2月)になると、お花屋さんや飲食店との業者間のやり取りに時間を取られ、その分ご遺族への対応がおろそかになりがちだという課題感があり、そこを解消したいというのが根底にあるようだ。
ちなみに他業界への展開については「技術的にはできるが、積極的に広げるかは今後の戦略次第」とのことで、今のところは葬儀業界に集中する方針とのことだった。
取材を終えて
「AI×業界特化」というテーマの記事を書くとき、つい「もう導入が進んでいる」「効果が出ている」という前のめりな話を期待してしまいがちだが、今回聞けたのは「まだ本番導入はゼロ」という等身大の現実だった。むしろその正直さのほうが、読んでいて信頼できる話だと感じた。
ファックスと電話が今も主流という、良くも悪くも昔ながらのやり方が根強い業界に、どうやってAIを馴染ませていくのか。答えが出るのはまだ先だろうが、その過程を追いかけてみたいと思えた取材だった。

電話対応AIについて詳しく知りたい方は、株式会社ディライトの公式サイトもあわせてチェックしてみてほしい。




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